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「野茂のようなパイオニアを目指す」- 世界中で使われるチャットワークのプロダクトづくりの秘密とは

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2012年のサービス開始から、今や世界183国で7万5000社に導入されているクラウド型チャットツール「ChatWork(チャットワーク)」。仕事において、もはや欠かせないツールになっている、なんて読者の方も多いかもしれないですね。

今回はそんなチャットワークの生みの親であり、CTOの山本正喜氏に、彼らのプロダクトづくりと、海外展開のお話を中心に伺いました。

コンセプトは「ビジネスシーンを楽楽に」

チャットワークというプロダクトを通じて実現したいことは何ですか?

外にはあまり出していませんが、開発チーム内におけるプロダクトとしてのチャットワークのコンセプトは「ビジネスシーンを楽楽(ラクラク)に」です。この楽楽には、「楽しい」と「楽(ラク)」の二つの意味があります。

その2つの価値を実現するため、具体的にはEasy・Efficiency・Enjoyの3つのEを重視することで、そのコンセプトを実現しています。

まず、Easyとは、誰でも分け隔てなく、簡単に利用できるということ。Efficiencyは効率性、つまり会議や電話といった相手の時間や場所を拘束してしまう同期型のコミュニケーションの時間を少しでも減らすことや、メールよりも効率的にコミュニケーションを取ることを指しています。

Enjoyとは、仕事を楽しくということですね。デジタルでのコミュニケーションだと、どうしても相手の雰囲気や温度感が伝わりづらく情報量が落ちてしまう問題がありますが、出来る限りFace to Faceに近いコミュニケーションを実現できるよう意識しています。

その3つのEはプロダクトにどのように反映されているのでしょうか?

まず、Easyを実現するために、チャットワークは多くの機能を簡単に使えるように設計しています。

チャットワークは、シンプルな印象を持たれる方が多いのですが、実は、チャットだけでなく、タスク管理、ビデオ通話、ファイル添付も備わっている多機能なツールなんです。タスク管理やビデオ通話に特化したツールは他にもありますが、上記の機能をセットで使えるツールはなかなかありません。

BBQに慣れていない人は食材が”BBQ”セットになってまとめて買える方が嬉しいように、ITに詳しくない方でも導入しやすい「基本セット」的な考え方を取り入れていて、それぞれの専門ツールのような高機能さはないけれど一つのアカウントで全ての美味しいところ取りができるというのがポイントです。ITに詳しくない方も、詳しい方も含めて全員で同じツールを使うことがコミュニケーションでは大事だと考えています。

Efficiencyに関しては、私たちとしてはできるだけ相手を拘束しない非同期のコミュニケーションを推進したいので、敢えてオンラインかオフラインかをわからないようにしたり、既読機能もつけないようにしたりといった点にこだわりを持っています。そうした機能を付けて欲しいという要望は多いのですが。

なぜそうした機能を付けないかというと、オンラインの相手から返信がすぐに来ずイライラしたり、会話を終わらせるために、わざわざ退出する旨を伝えないといけなかったりなど、余計なことに気を遣わせたくないからです。

ほとんどのコミュニケーションは非同期にした方が効率良くストレスの無いワークスタイルが可能だと思っていますが、一方で同期的なコミュニケーションが全く必要ないと思っているわけではありません。使い分けが大事だと考えていて、直接顔を見せ合って話せるようなビデオ通話の機能も用意しています。

また、エモーティコン(絵文字)やニックネーム(「〜さん」と呼びかける)機能は3つ目のEnjoyが反映されていると言えます。

営業がいなくても非ITの方々に使ってもらえるサービスの秘訣

なるほど。誰でも簡単に使えるサービスを目指すという場合、メインのターゲットとなるペルソナはどのように設定しているのでしょうか?

ペルソナは、ITリテラシーがそれほど高くない人に合わせて設定しています。元々、チャットワークは社内ツールだったので、最初のペルソナは自分たち自身でした。しかし、サービス開始後、様々な業種の人に使ってもらえるようになり、その中には農園や工務店の方など非ITの方もいました。その中で、ITリテラシーが高い人の生産性を上げるよりも、ITリテラシーがそれほど高くない人の生産性をあげるほうが社会的インパクトが大きいと考え、メインのターゲットに据えています。

農園や工務店の方も使っているのですね。そのような非IT系の方々にもチャットワークを使ってもらうためにはどのような工夫をしているのですか?

弊社は営業担当がいないので、オンラインで認知度上昇に取り組んでいます。まず最初にアーリーアダプター層(先進的なユーザー)の方々に知ってもらって、その後、社内で広めてもらうという流れになっていますね。前述した農園や工務店の方々からは、「チャットワークはメールよりも簡単に使えるツールだ」という感想をいただいています。

そもそも、なぜ営業の方がいないのですか?

学生時代に起業したのですが、そのときの影響ですね。学生時代は人的なリソースが足りなかったので、限られた時間を営業よりもサービス改善に費やしていました。当時から、営業をしないことによって浮いたコストを、サービスの品質改善と価格を抑えることに充てる、という考え方がベースにあります。

サービス運営の裏側

チャットワークは何名で運営されていますか?

現在、従業員は日本・海外あわせて55名程度です。内訳は、エンジニアが30名程度、マーケティングが10名程度、その他のスタッフが15名程度といった感じですね。

開発の部隊はどのように分かれていますか?

エンジニアは4つのチームに分かれています。メインのチャットの部分を担当するWeb開発部、ネイティブアプリを担当するアプリケーション開発部、管理画面やプランまわりなど支援系のシステムを担当する基盤開発部に加えて、私直属のCTO室というチームがあります。

CTO室のメンバーは、エンジニア界隈では有名なスペシャリストたちで構成されています。彼らは、各開発部のチームを横断して技術的な支援を行ったり、インパクトの大きなアーキテクチャの選定などの役割を担っています。CTO室のメンバーは基本的に遊軍的な形で、私から指示を出すのではなく、主体的に動いてもらっています。

ユーザーからのフィードバックは誰がどんな基準で判断してプロダクトに反映していますか?

基本的には事業運営を担っているディレクターが所属する事業推進部とCEOとCTOで判断しています。機能改善の要望は多数いただくのですが、基本的には全てのユーザーのためになるかどうかが基準で、特定のユーザーのみに特化した機能というものは提供しません。いただいたフィードバックをそのまま実装しても認識の違いなどでやっぱり違うものが欲しかったというケースも多々あるので、その課題は本当に解決するべきことなのか、本当に欲しいものがその要望している機能なのか、といった点は自社側できっちりと検討して開発するようにしていますね。

海外進出の裏には日本の将来への危機感

チャットワークは海外進出も積極的ですので、その点についても伺いたいと思います。プロダクトは海外と日本とでつくりを変えたりなどしているのでしょうか?

プロダクト自体は、海外と日本で変えることはしていません。ただ、現状は基本的に日本の文化に沿うものになっていると考えています。日本は世界的に見ると、単一民族で文化的に非常にハイコンテキストなカルチャーがある特殊な国でもあるので、今後しっかりグローバルのユーザーをわかった上でプロダクトに反映していく必要があると考えています。

開発はすべて日本で行っていると聞きましたが。

エンジニアがいるのは日本で、デザインとマーケティングについてはグローバル、という体制をとっています。開発に関して海外に出てからわかったことは、日本のエンジニアの優秀さです。グローバルで比較しても日本のエンジニアは国として教育水準が高いこともあり、優秀な方の層が非常に厚く阿吽の呼吸でやりとりも出来、十分な競争力を持っていると感じています。

しかし、日本はデザインに関してはまだまだ遅れているように思います。特にプロダクトのUIデザインなどはやはり欧米の方がずっと進んでいて、日本で優秀かつ経験豊富なUIデザイナーを採用するのは現状難しいと感じています。こういった日本が遅れているような部分は先進的な国の人の力を借りるようにして、グローバルのいいとこ取りをしていきたいと考えています。

最初から海外進出は視野に入れていたのでしょうか?

そうですね。「世界の働き方を変える」というチャットワークのビジョンにも反映されているように、海外は当初から視野に入れています。そこには、もともとCEOがアメリカ留学中にドットコムバブルを目の当たりにして、起業を決意したという背景もありますが、加えて、日本だけでビジネスを成り立たせるのは厳しいという危機感を強く持っていることが大きいです。

ChatWork   Simplify Business Communications

いろいろな見方はあると思いますが、2020年の東京オリンピック以降、日本経済はどんどん厳しくなると考えています。マクロで見ると景気は人口統計に大きく影響されるので、今後の人口減少・超高齢化社会を考えると楽観視はできません。その時になってから海外進出を図っても、社内の文化からサービスまでをグローバルに適応させるためには時間がかかりすぎます。だから、チャットワークとしてはポストオリンピックに備えて、3年後には海外と日本の比率を半々にすることを目標としています。そして、7年後には全世界で1億ユーザーを目指しています。

海外展開は世界にチャレンジしたい!というビジョン的な気持ちもありますが、どちらかというと先ほど言ったような経済環境での生き残りを掛けた、生存戦略として必要だと考えています。海外展開は本気でやろうと思うと、やはり視察だけでわかったような気になってもダメで、移住までしないと難しいと考えています。だから弊社では、一番重要なポストにいるCEO自らがシリコンバレーに移住し、自ら海外展開を積極的に推し進めています。

今後のチャットワークの展望について教えてください

短期的には、来年から機能改善をどんどん進めていく予定です。この1年は今後のサービス拡大に備えて、コードベースの書き換えを進めてきました。これによって世界規模でユーザー数が増えても耐えうる基盤が整うので、まずはそこに注力し、その後機能改善をさらに積極的に進めていきたいと思います。

長期的なところでいうと、チャットワークは、国産のビジネスツールが世界のプラットフォームになるという前例のないチャレンジを成功させたいという想いがあります。一度でも国産のWebサービスが、世界のプラットフォームになることができれば、日本のWebサービスに携わる人々も心理的ハードルが下がり、世界を目指しやすくなるのではないか、という期待があります。

野球に例えると話がわかりやすいかもしれません。かつては、多くの人がメジャーリーグで日本人が活躍できるとは思っていませんでしたが、野茂が先陣を切り開いて、今では当たり前のように多くの選手がメジャーリーグでプレーしていますよね。チャットワークも野茂のようなパイオニアになりたいと考えています。

編集後記

インタビューを通じて、チャットワークは社員の方々の想いを強烈に反映させているサービスだと感じました。絵文字など、ユーザーが何気なく使っている細部にまで自分たちの想いが込められていながら、一方で、徹底して簡単・便利を追求して、ユーザーファーストも両立している点に、チャットワークのユーザー数が増えている秘訣があると思いました。海外でも、この想いとユーザーファーストの両立がどこまで響くか注目したいです。

(聞き手・編集:布井/文筆:長島)

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MAITO NAGASHIMA / Internship
セカイラボでインターン中の学生です。社会人に間違えられることが多いですが、大学生です。グローバル化が進む時代をどう面白く生きていこうか思索しながら、バイト先の映画館でポップコーンをつくる日々を過ごしています。好きな国はスウェーデンです。