スタートアップ

コインロッカー難民ゼロの時代へ 手荷物一時預かりシェアリングサービス「ecbo cloak」誕生秘話

旅行などに行った際、土産や手荷物の預かり場所が街中で見つからず困ったという経験はないだろうか。特に海外ではコインロッカーという文化が広く浸透しておらず、特定の場所のクロークなどを活用するほか荷物を一時的に保管してくれる目立ったサービスは現在のところ出てきていないようだ。

一方、日本では駅前に複数積まれたコインロッカーをよく目にするが、多くの場合どのロッカーも既に鍵がかかっており、かつ駅前を少し離れると途端にそれ自体の数が少なくなる。そうした状況で東京の地理に詳しくない外国人旅行者が右往左往してしまうケースは多い。

そうしたコインロッカー難民を救うべくリリースされたのが、ecbo株式会社が提供する荷物一時預かりシェアリングサービス「ecbo cloak(エクボクローク)」。特定エリアのカフェや施設に荷物を気軽に預けることが出来る画期的なサービスとして、現在スタートアップ界隈のみならず、他業種からも注目が集まっている。

今回は、これまで日本で50年以上手が付けられてこなかったコインロッカー問題に切り込んだ同社代表の工藤慎一氏(以下、工藤)にサービスが生まれたきっかけや制作秘話などについてお話を聞いた。

きっかけは一人の訪日外国人

「荷物のない世界」を目指すecbo cloak

ーー2017年1月リリースされてからユーザーからの反応はいかがですか?

 

工藤 予想以上の反響がありまして、ありがたいことに全国からサービスに関するお問い合わせをいただいています。

ーー私もリリースを初めて拝見した時、この手があったか!と膝を打ちました。どのようなきっかけで本サービスを開発することとなったのでしょうか?

 

工藤 元々前職が配車アプリなどを出しているUberという企業で、シェアリングエコノミーに関する知見があったので、いつかこの仕組みで新しいサービスを出したいという構想はありました。ただ、そこを離れて一番最初に始めたビジネスというのは、いつでもどこでも荷物を取り出すことの出来るデリバリー付きのトランクルームサービスでした。

取り組んでいたビジネスとしては、UberにおいてはA地点からB地点への移動をいかに効率良くマッチングさせるのかというサービスだったのですが、私がやりたかったのは、A地点とB地点の拠点自体の移動をよりフレキシブルに出来ないかと考えたものでした。

デリバリー付きトランクルームの長期保管サービスは、昨年の8月くらいまでβ版で運営していたのですが、成功はすると思うが若干成長のスピード感に欠けるんじゃないかという危惧もありました。

そういったことを考えながら渋谷を歩いているときに、荷物を預けたくて困っている訪日外国人に出会ったんですね。いざ、一緒にコインロッカーを探してみると全然見つかりませんでした。

家に帰って渋谷にコインロッカーがいくつあるのか気になって調べてみたら、約1400個しかないことがわかりました。さらに、スーツケースやキャリーケースが入るロッカーは、そのうち10%もないとも。その時、ecbo cloakのビジネスモデルを思いつきました。

さらに、荷物の一時預かりにどのような許可が必要なのかを調査したところ、特別な許可や申請は必要ないというのが法律で書かれていて、非常に面白いと思いました。というのも、荷物の長期保管サービスは倉庫業としての許可・申請が必要でそれがボトルネックでしたが、一時預かりの場合は必要ないので、これをカフェなどで対応することが出来ればチャンスになると。

一般的に外国人旅行者は、ホテルなどに早くチェックインして、遅くチェックアウトしたいと思っています。それはつまり、なるべく荷物を早く預けてしまって、時間ギリギリまで観光を楽しんでから荷物を引き取りたいということ。そこで、ストレスなく駅前で荷物を預けることが出来、引き取ることも出来るこのサービスをリリース前に検証実験をしてみたところ、根拠となる数字も付いてきたので踏み切る覚悟ができました。また、大きな倉庫を借りる必要もなかったというのも、このビジネスを始める上で大きな魅力のひとつでしたね。

偶然出会った外国人旅行者がきっかけだった

時代がシェアリングエコノミーの概念に追いついてきた

ーーなるほど。今まで50年間コインロッカーには革命が起きなかったわけですが、それは何故だと思いますか?

 

工藤 まず考えられるのが、シェアリングエコノミーという概念がスマートフォンの普及に伴って、一般的になったというのが大きいのではないでしょうか。一昔前に比べて、シェアという概念が当たり前になり、サービスを人々が受け入れる土壌が出来てきたからだと思います。

ーー時代に合ったサービスということですよね。

 

工藤 もしこれが企業に預けられるというサービスだったら、ユーザーは抵抗を感じてしまうかもしれませんが、親しんだカフェや飲食店なら利用しやすいですよね。

ーークロークとして選ばれているカフェは、ついつい長居してしまうようなオシャレなお店が多い印象ですが、そのあたりの意図はあったのでしょうか?

 

工藤 はい、あります。ユーザーの気持ちになって考えたとき、二つあると思っていて、一つはただ預かるだけというのは嫌だったということ。普通、コインロッカーに荷物を預ける時には何も考えないじゃないですか。無機質な箱に物を入れることに何も感動は生まれません。

なぜその感動が大切なのかと言うと、やはり旅行者は数十万円のチケットを支払って日本に来てくれているわけで、そういう人たちにコインロッカーを探すために40分も歩かせるというのはありえないことですし、現地でしか味わえない体験を荷物をあずけるついでに体験してもらえたらという意図があります。そのファーストステップとしてカフェという場所を選びました。長期的には、カラオケ店や着付けのお店などでも展開出来れば、日本文化も味わえる体験も提供していきたいですね。

ーー日本のお店に詳しくない訪日外国人にとっても、色々なお店が知れてお得ですね。でも、最初はカフェなどに営業に行かれてどのような反応をされたのでしょうか?

 

工藤 お店の反応は両極端でしたね。危ないから遠慮しておくというお店もあれば、面白いからやってみようとおっしゃっていただけるお店もありました。まだリリースもしていない私たちのサービスに賛同してくれて、とても嬉しかったです。

旅行者にも現地でしか出会えない体験を提供したい

今後はさらなる拡大へ

ーー協力してくれるお店も仲間という感じでいいですね。開発部分についても教えていただきたいのですが、サービスサイトはスピーディに開発出来たのでしょうか?

 

工藤 正直かなりつまずきました。ボタンの位置やファーストビューなど数百以上まだまだ課題は残っているのですが、今回のリリースでは、ユーザーさんが手荷物を預けられるというサービスをまず体験していただきたかったので、細かいフィードバックは順次対応していくというかたちにしています。

現状Webのみですが、今後アプリでの展開も考えています。

ーーサービスをローンチされて間もないですが、ユーザーの層としては、どんな国の方が一番多く利用していますか?

 

工藤 登録数で言えば、香港・台湾が多いですね。あとは、韓国やインドネシアの方もいます。

ーー今後、どのような想いでこのサービスを拡めていきたいと考えていらっしゃいますか?

 

工藤 やりたいことはまだまだたくさんあるのですが、直近では、利用しやすい3時間プランなどを作って提供していきたいです。あとはデリバリーサービスもやりたいですね。例えば、日本に来て空港に荷物を預けて一日遊んだあと、ホテルに戻ったら自分の荷物が届いているという体験や宅急便の荷物を好きなカフェで受け取るなど。

細かい部分の改善は、荷物を預けに来る人はどのような価値基準なのかを研究・ヒアリングをして、ユーザーにとってより心地よいサービスづくりを今後目指していきたいです。

ーー海外展開も視野に?

 

工藤 あります。私の出身がマカオなので、中国・香港・マカオでも展開したいですね。理想は、このecbo cloakが世界中どこでも使えて空港間配達も出来て、ということが実現出来たら旅行が180度変わると思います。

ーー世界の旅行者が身軽に旅が出来るようになるといいですね!本日はありがとうございました!

取材後記

今回、工藤氏のお話を聞いて、日常生活に溶け込んでいるコインロッカーの無機質さや感動体験の欠落というものに改めて気付いた。

仮に外国人旅行者の立場に立って、実際に自分が新宿や渋谷で空港から運んできた大きなスーツケースなどの荷物を早く預けたくても預けられない場面を想像すると、それだけで何だか疲れてしまう。実際のストレスはもっとだろう。しかし、「ecbo cloak」をうまく活用することが出来れば、美味しいコーヒーが飲めてなおかつ日本ならではのおもてなしサービスを受けることも可能だ。

人間の記憶は、ストーリー性を持つほど強烈な記憶として残る。もし、荷物を預けた先で新しい体験があれば、新しい人と出会えたら、ユーザーにとって忘れられない思い出となるだろう。それは、同じ荷物を預けるという目的であっても、単純にコインロッカーに荷物を押し込めるだけでは生まれないストーリーだ。今後、オリンピックへ向けても、小さな感動体験を海外からの旅行者に提供出来るサービスの需要は高まっていくだろう。

ecbo cloakが、より多くの人々に素敵なストーリーと感動体験を生み出すきっかけになっていくことを願う。


花岡 郁 / SEKAI LAB TIMES編集長
運営元の株式会社モンスター・ラボでは広報・マーケティング領域を担当。好きな国はタイとドイツ。わりとアニメ声優ヲタク。