
左から兒嶋裕貴氏、野田陽介氏、阿部智樹氏
グローバリゼーションが急速に進み、海外の商品を海外のサイトから購入をする読者も最近では多いのではないでしょうか?
国内と海外の市場の距離がインターネットによって近づいている現代、日本の企業も海外の市場をターゲットにするのが当たり前となってきています。
しかしながら、現地に拠点を設けて販売を始めるというのはコスト的な問題やリスクを考えるとベストなアイデアではないのかもしれません。
そんな問題を解決するために多くの企業が進出をしてきているのが越境EC。
現在では、中国、アメリカをはじめとする先進国、他のアジア諸国を相手に、日本と海外をつなぐ越境EC市場は拡大を続けています。
今回は越境ECにおける課題、傾向、これからについてPayPal Pte. Ltd.東京支店 事業開発部部長 野田陽介氏、株式会社 Resorz 代表取締役 兒嶋裕貴氏、株式会社ラクーン 取締役 阿部智樹氏が登壇したメディア向けセミナーの内容をレポートします。
目次
PayPalが見る越境ECとは
世界中でコンシューマーとバイヤーに毎年アンケートを実施しているPayPal。
合計32カ国でのEC市場の規模を比較すると、アメリカと中国が6割ほどを独占し、突出しています。
将来的に越境ECが注目すべき国について、PayPalが独自で成長率を推測している中では、インドが最も成長している国とのこと。
「これからもアメリカと中国の2カ国が市場を引っ張っていくことに変わりはないと思われるが、5年10年と未来を見ていくと、インドは欠かせない存在になってくるでしょう。」
なぜ日本の商品なのか
中国のユーザーアンケートにおいて、1番の取引相手は日本になっています。
なぜ日本から購入をするのかというと、商品の質、日本の店舗が扱っているという信頼性、あとは中国では購入できない商品があるという点があがりました。
一方アメリカでは、日本は全体で4番目の取引相手になっています。
大きな理由としては、価格。
為替の変動に左右されることは多いが比較的求めやすい価格という面で消費者は購入の傾向になっています。
その他の理由としては、日本の最先端の商品が購入できるという点が魅力的なようです。
”送料”という越境ECの課題
では、ユーザーが越境ECでの購入を諦めるきっかけになるのはどのような時なのでしょうか。
これはどこの国でも変わらないのですが、「送料の高さ」は常に上位の課題として挙げられます。どうしても、海外から発送になると送料が高くなってしまいます。
また「安全性に不安」という声も多いようです。
自国での販売と違う分、やはり消費者も100%信頼を置いて購入に踏み切ることはできないのでしょう。
海外消費者に安心の決済方法を
海外ユーザーが越境ECで購入を決意する要因になるものとして、「送料無料」の他に「安心な決済」はマスト。
やはり、消費者からすると送料というものが大きな役割を果たすようです。
「安心な決済」という点ではPayPalによって保証できると野田氏は語りました。
PayPalを使うメリットとは何なのでしょうか?
「実際に導入をしたTokyo Otaku Modeさんでは、当初オンラインではクレジットカードでの決済しかできなかったのですが、その中で海外の消費者から「PayPalで支払えないのか」というお問い合わせがありました。それを機に、実際にPayPal導入をしたところ3ヶ月で売り上げが2倍に上がりました。これは、今までなかった消費がオントップで増えるという結果につながりましたね。PayPalは越境ECの中で売り上げを上げるということで大きな引き金となっています。」
海外進出の相談を受けるからこそわかること
2人目の登壇者は、株式会社Resorz代表の兒嶋氏。
株式会社Resorzでは海外ビジネス支援のプラットフォームとなる「Digima~出島~(http://www.digima-japan.com)」を提供しており、海外ビジネスの中で一番重要になってくるのが現地でサポートをしてくれるパートナー企業とのマッチング。
「現地の調査会社、物流会社、工業団地、税務・会計士や弁護士などのネットワーキングを自社でしており、現在計700社と連携をしています。例えば、インドネシアに製造業で進出したいという相談が来た場合、現地の主な都市にそれぞれ提携会社がいるため細かいニーズに合わせて適切な企業を紹介できるという。そういった相談を無料で行なっています。」
オンラインで海外進出を
数年前までは、海外ビジネスをするとなると実際に現地に出るという方法しかなかったものが現在ではインターネットを使って進出をするという流れが加速してきています。
そのため海外の消費者がオンラインで購入をできるようにするため多言語でのECを構築したいや、現地のECモールに出品をしたいなどの相談が増えているそうです。
傾向として、メーカーはBtoBの自社サイト構築、B向けのECモール出品。消費財や雑貨、アパレルなどはBtoCの自社サイト構築、ECモール出品。小売業はインバウンドでの相談が増えているのが現状となっています。
国内全体の流れとして、日本企業のテストマーケティングが増えてきています。
今までは海外に出るか出ないかとなった時、調査会社に頼むなどしか方法がなかったものが、ECモールでテスト的に出品をするということが可能になっているのが要因だと思われます。

これからさらに日本企業の海外進出は増えるでしょうと語る兒嶋氏
日本商品の需要が増えてくる
また、中国やインド、ASEAN各国のECモールそれぞれの特徴や今後の日系企業の展開利用予測なども紹介。
さらに、「これまで海外=コストダウンという印象がありましたが、実は、グローバルな流れとして日本は他国に比べるとむしろ安売りの国であると認知され始めています。しかし、安いのに商品の質が高いという日本のクオリティに各国が気付き始めているため、今後EC上でも日本商品の消費が増えるでしょう。」と兒嶋さんは強く語りました。
これからの越境ECはどう変わっていくと兒嶋さんは考えているのでしょうか?
「越境ECでは消費者は知っているものしか買わない傾向にあるが、動画を伴ったメディアを導入することにより、商品をしっかり目にすることが可能になり、日本商品の消費はさらに増えるでしょう。」
越境ECの課題
最後は、株式会社ラクーンの阿部氏です。
株式会社ラクーンでは日本国内のメーカーと海外の企業・小売店が取引できる越境BtoBサービス「SD exports」を提供しています。
越境ECだとBtoCが主流であるが、BtoBだと多くのメリットがあるといいます。
その一つにまとまった量の注文と連続性を持った取引のおかげで、配送、集客コストを抑えて取引拡大が可能になるということがあります。
「SD exports」の開発にあたって国内の企業にヒアリングを行ったところ、言語の壁、配送、決済の3つの課題が浮かび上がったそうです。
それを「SD exports」が解決しているといいます。
「言語に関しては、各社の商品の情報などを翻訳しています。配送においては、不安を抱える企業に我々の倉庫に商品を配送してもらい、そこから我々が海外に配送をしています。決済に関しても、我々が海外の小売店からお金を回収するので、支払いを受けないということはないです。このようなサービスによって、日本の企業は海外への進出の壁が0の状態で臨むことができるようになります。」
現在600社を超える16万商品が登録されています。海外の小売店は100カ国14,000社が登録しています。

越境ECの課題を語る阿部氏
台湾、中国から欧米へ
サービス開始当初は台湾や中国などの日本に距離的に近い国の登録者が多かったようです。
欧米での売れ行きが伸び悩んでいた際に、決済の方法が歯止めになってしまっているのではないかということでPayPalを導入したところ売れ行きが上がりました。
現在は、アメリカをはじめオーストラリア、カナダ、イギリスなど英語圏の小売店の登録も増えてきています。
英語のサイトということもありアメリカからの登録数が1位になっています。
仕入れの数が増えたお客様には配送料の問題解決のために船便を取り入れたりすることによってさらに売り上げが伸びました。
決済と配送の課題を解決することによって売り上げにとても影響を与えます。
やはり経験上、その二つの問題が大きな壁になっているのが現状です。
「日本らしさ」がこれからの越境ECにおける強みに
現在売れ行きの良い商品はどのようなものなのでしょうか?
「出品されている商品の中で売れているものは食器を筆頭に文房具、カバンなどがありますが、売れる共通項にあるものは「日本らしさ」です。必ずしもメイドインジャパンではないですが、日本特有のきめ細かさというのが人気の理由になっています。」
例えば、(株)アミューズは日本の会社ですが生産はほぼ中国です。同社ではゲームセンターの景品でよく見るぬいぐるみなどの可愛らしさでアメリカ、香港、台湾への輸出が増えているそうです。
海外の小売店だと、台湾陶器専門店”DEERHOUSE”や、ルーマニアの和のギフトショップ“TAKUMI”など多様性にあふれています。
”DEERHOUSE”では、以前台湾国内の商社から輸入していたものの種類の少なさなどから直接輸入のSD exportsに切り替えたそうです。
”TAKUMI”においては開業当時からSD exportsを利用し、現在44社と幅広いジャンルからの会社と取引をしています。

売れる共通項は「日本らしさ」
越境ECで勝つ
越境ECが抱える課題というものは未だに多くあります。
日本企業が海外市場に進出し、台頭するためにもそれらの課題を解決していく必要があります。
しかし、海外を一括りにして1つのソリューションに頼るということも成功につながるようではありません。
グローバリゼーションで勘違いをしてしまうのが、世界を1つとして見てしまうことです。
国同士の距離感は近くなっているものの、彼らが同一になったということではありません。
越境EC業界で現在注目株であるインド、長期のスパンで見ると東南アジアがありますが、それぞれの言語、各国にあった物流の方法、決済方法を提供することが重要となりそうです。
さらに、他の国とは一線を画す存在であり続けるためにも「日本らしさ」ということも忘れないことが、さらなる取引拡大に結びつくことでしょう。
お知らせ
越境ECサービスを自社でも構築したいとお考えの方は、セカイラボまでお気軽にお問い合わせください。
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